求人広告を出すたび、誰かが原稿を1本ずつ書いています。仕事内容を並べ、求める人物像を言葉にし、待遇を整える。人材サービス大手のヒューマンリソシアでは、この作業が毎月およそ4,000件。1本あたり約20分、積み上げると年間で約16,000時間ぶんの手作業になっていました。
同社はこの原稿づくりに、AIエージェント基盤「つなぎAI Powered by Dify」を導入しました。ペルソナの設定から広告文の生成までをAIで一気通貫にこなし、定型的な手順はRPA「WinActor」に流す。作成時間を約3割縮め、年間で約4,800時間の削減を見込みます。一次プレスリリースは2026年1月15日、詳細は同月21日の「第2回つなぎAI Powered By Dify MeetUP」で公表されました。
「うちは求人なんて出さないから関係ない」と読み飛ばす前に、1点だけ。この事例の芯は求人ではなく、同じような文章を人が延々と書き直している業務すべてにあてはまります。商品説明文、よくある質問への回答、定型のお礼メール。群馬の中小企業にも、これらの反復作業は必ずあります。
ヒューマンリソシアが求人原稿づくりで何をしたか

従来の流れはこうでした。担当者が求人票の情報を読み込み、掲載媒体に合わせて言い回しを整え、1本ずつ広告文に仕上げる。書き手の経験によって出来上がりに差が出やすく、月4,000件を人手でさばくには相応の時間がかかっていました。
導入後は、まず求職者のペルソナ(想定する応募者像)をAIが設定し、そのペルソナに向けた広告文までAIが生成します。人が毎回ゼロから書き起こす部分を、AIの下書きに置き換えたわけです。さらに、原稿を所定の欄に入力するといった定型の手順はRPA「WinActor」に任せ、人の手を離しました。
ここで押さえておきたいのは、使われている「つなぎAI Powered by Dify」の立ち位置です。これはNTTデータが提供するAIエージェント開発基盤で、米LangGenius社のDify(生成AIアプリの開発プラットフォーム)に日本企業向けの機能を足したSaaSです。ヒューマンリソシアはこの基盤の販売と導入支援を担う立場で、2025年10月8日に販売を開始しました。つまり今回は、自社が売り、導入を支援している道具を、まず自社の求人業務で使ってみせた事例。売り手が自分の現場で実装してみせた例と読むのが正確です。
効果はまだ「見込み」。数字の読み方
年4,800時間、作成時間3割短縮。この数字は魅力的ですが、扱い方に注意が要ります。同社の発表は「削減効果を見込む」という書き方で、実績が確定した値ではありません。導入前後を1年通して測った結果ではなく、これから得られると想定している数字です。
だからといって割り引いて聞く必要はありません。むしろ、他社の効果数値を自社の判断材料にするときの作法として覚えておくと役立ちます。他社の「◯時間削減」は、その会社の業務量と測り方に紐づいた数字で、そのまま自社にあてはまるわけではない。参考にするのは方向感だけにして、自社では自分の1業務で前後を測る。この順番を守れば、見込み値に振り回されずに済みます。
もう1つ、この導入で見逃せない効果があります。原稿の品質が書き手ごとにばらついていたのを、AIの下書きを土台にすることで平準化した点です。時間削減より、この「誰が担当しても一定の水準に揃う」ほうが、人の入れ替わりが多い現場では効いてくることがあります。
この事例が中小に効く理由は「非エンジニアが主役」だから

AI導入の事例には、システム部門やエンジニアが仕組みを組んだ話が多くあります。この事例が違うのは、原稿を書く現場の担当者が使う道具として設計されている点です。つなぎAIは非エンジニア向けにつくられたSaaSで、コードを書かずに業務アプリを組み立てられる。求人原稿という具体的な業務を、その業務を一番わかっている人がエージェント化した構図です。
群馬の中小企業に翻訳すると、ここが一番刺さります。専任のIT担当を置けない会社でも、日々の反復文章を一番よく知っているのは現場の人です。その人が扱える道具であれば、外注や大がかりなシステム開発を待たずに、手元の業務から自動化を始められる。求人原稿の話を、自社の「毎月繰り返す文章仕事」に置き換えて読んでみてください。
反復する文章を「下書き→確認→定型は自動」の型に分ける

ヒューマンリソシアの組み立てを、業種を問わず使える型に抜き出すと、次の3つに分かれます。
- 下書きはAIに任せる。ゼロから書き起こす部分をAIの生成に置き換える。人は白紙から書くのではなく、出てきた案に手を入れる側にまわる。
- 確認は人が必ず入る。求人票なら待遇や条件、商品説明なら仕様や価格。事実の正誤は人が最終チェックする。ここを飛ばすと、間違ったまま量産する事故になる。
- 定型の手順は自動化に流す。所定の欄への入力、フォーマット変換、送信先の振り分け。判断の要らない反復はRPAや自動化ツールに任せる。
自社にあてはめるなら、まず1つの業務だけを選びます。求人原稿でなくてかまいません。毎週書く商品説明文、問い合わせへの定型返信、月次の案内メール。反復していて、しかも書き手によって出来がばらつくものが最初の候補です。その1業務を上の3段階に分け、下書きをAIに、確認を人に、定型作業を自動化に振り分ける。いきなり全業務を変えようとしないのが続けるコツです。
正直に言うと、始める前に決めておくことがある
この型は万能ではありません。導入して失敗する会社には、共通したつまずき方があります。
1つは、確認の工程を軽く見ること。AIの下書きは、それらしい文章を自信たっぷりに出してきます。事実確認を省いて量産すると、間違いも同じ速さで広がる。求人なら応募トラブル、商品説明なら景品表示法(不当な表示を禁じる法律)に触れるリスクにつながります。速くなるのは下書きまで、確認は人の仕事という線引きを最初に引いてください。
もう1つは、効果を測らずに始めること。「なんとなく楽になった」では、社内で続ける根拠になりません。今の1業務が1本あたり何分かかっているかを導入前に測り、AIを入れたあとにもう一度測る。この前後比較があって初めて、他部署に広げる話ができます。ヒューマンリソシアの「1本約20分」という起点の数字も、測っていたから削減幅を語れるわけです。
まとめ
- ヒューマンリソシアは月約4,000件の求人原稿づくりに、NTTデータ提供の基盤「つなぎAI Powered by Dify」(同社は販売・導入支援を担う立場)を導入し、作成時間3割短縮・年約4,800時間の削減を見込む(実績確定ではなく見込み値)。
- 刺さるのは「非エンジニアの現場担当が主役」という構図。反復する文章仕事を、その業務を一番知る人が自動化できる点が中小に翻訳しやすい。
- 型は「下書きはAI・確認は人・定型は自動化」の3分割。自社の1業務に絞り、導入前後で作業時間を測ってから広げる。
反復する文章仕事を1つ、一緒に棚卸ししませんか
ククルデザインは群馬の中小企業向けに、AI・DXの導入を実務に落とし込む伴走をしています。「どの文章仕事から手をつけるか」「下書き・確認・自動化の線引きをどう引くか」を、御社の実際の業務を見ながら一緒に整理します。求人原稿でも、商品説明でも、定型メールでも。まずは反復している1業務を選ぶところからご相談ください。



