東京の Sakana AI が、9月11日に新しいAIモデル「Fugu Max(フグ マックス)」と「Fugu Ultra v2.0(フグ ウルトラ v2.0)」を公開しました。1個の巨大な万能モデルで全部こなすのではなく、複数の専門モデルを裏で使い分ける「司令塔」を学習させた点が新しい。しかも国産です。
正直に言うと、群馬の中小企業がこのモデルを明日から業務で使うかというと、まだ早い。ただ、この発表には当社が普段お客さまに話している「AIは1つに絞らず、仕事の難しさで使い分ける」という考え方の答え合わせが含まれていました。今日はそこを中心に、事実だけ整理してお伝えします。
何が新しいのか——「1つの賢いモデル」ではなく「振り分ける司令塔」

ここ数年のAIは「もっと賢い1個のモデルを作る」という競争でした。Fugu の発想は違います。オープンソースのモデルや特定作業に強い専門モデルを何十個も手元にプールしておき、届いたタスクを見て「これはこのモデル、あれはあのモデル」と振り分ける。この振り分け役(オーケストレーション、司令塔)そのものを学習させた点が肝です。
司令塔は必要なら自分自身をもう一度呼び出して、問題を小さく割って解かせることもできます。使う側から見えるのは1つのAPI(外部のプログラムから呼び出す窓口)だけ。その裏で複数のモデルが手分けして働きます。今回の公開では、そのモデルプールに NVIDIA と協業して NVIDIA Nemotron ファミリーが加わりました。
単一のモデルではなく、複数のモデルが協調して1つの答えを出す。使う人は「どのモデルを呼ぶか」を考えなくていい。それを製品側が引き受ける。
料金と性能——数字はこうなっている
料金は100万トークン(AIが処理する文字のかたまりの単位)あたりで、2モデルに分かれます。数字は公式リリースと OpenRouter の掲載値で確認しました。
- Fugu Max:入力2ドル/出力6ドル。安いほう。
- Fugu Ultra v2.0:入力5ドル/出力30ドル/キャッシュ0.5ドル。高いほう。文脈が27万トークンを超えると入力10ドル/出力45ドルに上がります。内蔵のWeb検索は1000回で10ドル。
Sakana AI は、Sonnet 5 や GPT-5.6 Terra、Kimi K3 といった競合の出力コストを、Fugu Max で4割から6割下回るとしています。安さの理由が「賢い1個を作り込む」ではなく「安いモデルと高いモデルを賢く振り分ける」ところにあるのが、この製品らしい。
性能は、Fugu Ultra v2.0 が自社評価の8ベンチマーク中5つで最良または同率最良、コード修正の難関テスト DeepSWE で74.3を記録したと発表されています。ただしこれはSakana AI 自身が測った値で、第三者の独立評価ではありません。桁を鵜呑みにせず、方向感として受け取るのが正しい距離感です。機能面では、思考の深さを high・xhigh・max で切り替える reasoning effort、関数呼び出し、構造化出力(決めた形式で答えを返させる指定)、画像とPDFの読み込み、Web検索の内蔵に対応します。
中小企業にとっての意味——「モデル選び疲れ」への別の答え

当社はお客さまに、AIの使い分けを3層で考えるようお勧めしてきました。やり直しコストが高い判断は上位の賢いモデル、実装や調査は中位、ファイル探しや一覧づくりのような雑務は軽いモデル。仕事の難しさでモデルを層別すると、精度も費用も両方おさえられるからです。
Fugu がやっているのは、この層別を1つのモデルの内部で自動化したことに近い。人間が「今回はどのモデル」と選ぶ代わりに、司令塔が中で振り分ける。新しいモデルが出るたびに乗り換えを検討する「モデル更新疲れ」に対して、「どれを使うかの判断そのものをモデル側に預ける」という別解を、国産の会社が製品として出した。ここが今回いちばんお伝えしたい点です。
米国の大手が「もっと賢い1個」を競い合う流れとは、明らかに別の軸の動きです。モデル選定に振り回されたくない中小にとって、こういう方向の選択肢が国内から出てきたこと自体に意味があります。
正直な話——今は「様子見」でいい
魅力的に聞こえる発表ですが、群馬の中小企業が今すぐ飛びつく必要はありません。理由を3つ、隠さず書きます。
ひとつは、公開されているベンチマークが自社評価だということ。独立した第三者の検証が出そろうまでは、性能の断定を待つのが安全です。もう一つは、使うにはAPI経由が前提で、社内の誰でもすぐ触れる形ではないこと。表計算やチャット画面から気軽に、とはまだいきません。そして料金も、高いほうの Ultra v2.0 は出力30ドルと、使い方次第でそれなりにかかります。
「国産で新しいから」だけで導入を決めるのは、当社としてはお勧めしません。まず出そろう評価を見て、自社のどの業務なら効くかを見極めてからで十分間に合います。
当社はどう受け止めているか

当社はこの発表を、製品そのものより「考え方の裏付け」として受け止めています。AIは1つに絞る必要はない。仕事の難しさで使い分ける。その運用を、いずれモデル側が肩代わりしてくれる時代に向かっている。日々の提案でお伝えしてきた方向と、大手の一社が同じ方を向いた、という手応えです。
そのうえで、Fugu を待たずに今週からできることがあります。難しい話ではありません。
- 反復が多く、判断基準の決まった業務を1つだけ選び、そこで手元のAIを試す。全部を一気に置き換えない。
- AIに渡す前に、取引先名・個人名・口座・金額といった機密を落とすか仮名化する。社外に出せない情報はクラウドのAIに貼らない。
- AIが返したものは下書き扱いにし、金額や客先へ出す文面は人が原本と突き合わせて確定する。作るのはAI、確定するのは人。
この入口と出口の2つの関所さえ守れば、どのモデルを使うかに振り回されなくても、AIは今日から仕事の下ごしらえに使えます。Fugu のような司令塔型が実務に降りてくる頃には、その土台が効いてきます。
「うちのこの業務で試すなら、どのAIをどう使えばいいか」を一緒に測りたい方は、ククルデザインまでお気軽にご相談ください。小さく始めて、前後を数字で比べるところからご案内します。



