受注チェックリスト100ページ、注文書100ページ。ピーク時のこの束を、別々の担当者が2度、目で追っていく。見つかる間違いは1日平均で2〜3件ありました。
三重県伊賀市のジャバラメーカー、株式会社ナベルは、この工程を導入1ヶ月で3人体制から実質1人まで減らしました。効いたのは高機能なAIではなく、AIに任せる項目を13から6へ削る判断でした。
書類チェックの当てはめ先を探している会社が持ち帰れるのは、この絞り方です。
100ページを2度めくる。ミスは1日2〜3件

ナベルは創業50年超、従業員199名。機械の伸縮部分を覆うジャバラをつくっています。受注は年間およそ2万件。うちFAXとメールのアナログ受注が約6割で、EDI(電子データ交換。取引データを直接やりとりする仕組み)が約4割です。
受注チェックは1次と2次の2段構え。別々の担当者が、それぞれ目視で突き合わせます。ピーク時は受注チェックリスト100ページと注文書100ページ。少ない日でも50ページ対50ページ。
出てくる間違いの定番は3つでした。
- 注番の見落とし
- 図番の転記ミス
- 数量の入力ミス
厄介なのは数量です。少なく入力しても書類の上では成立してしまい、客先で使う直前に足りないと発覚する。そこでクレームになります。
しかも受注は増えていました。採用難と売上のV字回復が重なり、人を増やして目を増やす選択肢は現実的ではなかった。現場の課長である藤林氏は「受託でもいいから依頼したい」と切迫していたそうです。
OCRで一度断念し、13項目を全部任せても答えがばらついた
ナベルは過去にFAX注文書のOCR化(紙の文字を読み取ってデータにする仕組み)をトライアルしています。結果は断念。手書きの書き込み、文字の潰れ、顧客ごとにバラバラなフォーマットに追いつけませんでした。
つまずきはもう一度あります。書類突合AI「突合.com」(株式会社Leach)を入れた当初、ナベルは13項目を全部AIに突き合わせさせようとしました。得意先、直送先、納期、顧客担当者、営業担当者、図番、数量、単価、工場、製造グループ、注番、備考、商品メモ。全部です。
AIの出力はばらつきました。
ここで手を止めて「うちの書類にAIは向かない」と結論づける会社もあるはずです。ナベルはやめる代わりに、任せる範囲を削っていきました。ちなみに最初に出た受託開発の見積は400万円規模。協議の末、月額のSaaS(インターネット経由で使うソフト)として使う形に着地しています。
6項目に絞り、1次はAI、2次は人

いま動いている指示は固定文で、たった1行です。得意先、納期、顧客担当者、図番、本数、単価を受注チェックリストの上から記載されている内容通りに突き合わせて。
これだけ。残りの項目は人の2次チェックに残しました。
毎日の流れはこうです。
- 午前中に受注入力を終える
- 昼一で受注チェックリストのPDFと注文書のPDFをアップロードする
- AIが1次チェックを回す
- 人が画面上で2次チェックし、怪しいところだけ重点的に見る
手書きで書き込まれた受注番号もAIが読み取ってグループ化します。「1万」「10,000」「10000」のような表記ゆれは、一致でも不一致でもなく確認ステータスで返る。人が最後に判断する余地が残る設計です。
全自動ではありません。1次の網をAIが張り、人はその網から漏れたものを探す。役割を分けただけです。
1ヶ月で3人が1人に。空いたのは1日40分〜1時間
導入から約1ヶ月の実績が出ています。
- 毎日3名がかりだったチェックが、実質1名体制になった(変更とアナログ受注分に1名、EDI側にもう1名)
- 2次チェックに40分〜1時間かけていた担当者の時間が、まるごと空いた
- 1次と2次の合計時間は約半減
- コストは「月額費用ぐらいの削減効果が出ている」(1ヶ月時点、藤林氏)
数字より印象に残ったのは担当者の言葉です。北寺氏は「AIが『一致』と言ってくれるだけで気持ちがだいぶ楽になりました」と話しています。一言一句を目で追い続ける緊張から解放され、体調による作業時間のばらつきも平らになったそうです。
社長の永井氏は、受注確認が業務フローの最上流にあると指摘しています。ここを誤れば、部品手配から出荷までの工程が全部無駄になる。だから最初に手を付ける価値があった。
導入後、現場から「他の間接作業もAI化したい」という声が上がったといいます。永井氏の言葉を借りると、大事なのは小さな自動化であっても体験・実感してもらうこと。ここまでの事実は出典記事に基づいています。
群馬県の中小企業なら、どの照合から始めるか
筆者は、AI導入の入口として書類の照合作業がいちばん当てが付けやすいと考えます。手順は決まっているのに、最後は人の目で回している作業です。受注、請求、在庫、検収。この4つのどれかを目視でやっていない中小企業は、ほとんど無いはずです。
たとえば従業員20名の製造業。注文書と社内の受注一覧を突き合わせるのは、たいてい事務の1人か2人です。その人が休むと止まり、忙しい日は精度が落ちる。ナベルの199名という規模と違うのは人数だけで、詰まる場所は同じです。
ナベルの進め方から持ち帰れるのは、次の3つだと考えます。
- 項目を絞る。13項目を一気に任せず、精度が出る6項目に削る
- 1次と2次を分ける。AIに網を張らせ、判断は人に残す
- 毎日痛い1工程だけから始める。全部の書類を一度にAI化しない
ナベル自身も、次は月初に集中する検収業務、つまり請求書と社内書類の照合へ広げる予定だそうです。1工程で成果が出てから隣に伸ばす。この順番が現実的だと思います。
まとめ
- ナベルは受注チェックの1次をAIに任せ、毎日3名体制を実質1名にした。2次チェック担当の40分〜1時間がまるごと空いた
- 効いたのは照合項目を13から6へ絞ったこと。全項目を任せた段階では出力がばらついていた
- 入口になるのは、手順が決まっているのに目視で回している照合作業。受注、請求、在庫、検収あたり
まずは自社の書類チェックのうち、担当者が毎日いちばん時間を取られている1工程を紙に書き出してみてください。その1つが決まった段階でお問い合わせから一言もらえれば、AIに任せられる項目と人に残す項目の線引きを、ククルデザインが一緒に考えます。
ナベルが最後まで人に残したのは、7項目分の2次チェックでした。減らしたのは目視の量で、責任の所在は動かしていない。この線引きが、書類チェックにAIを入れるかどうかの分かれ目だと思います。



