ChatGPT や Claude に仕事を頼むたび、同じ前置きを打ち直していないか。「うちは群馬の建設会社で、就業規則はこう決まっていて、回答はですます調で三行以内」。この説明を毎回貼るのは手間だし、貼り忘れた日は答えがブレる。人によっても答えが揃わない。
この面倒を消す機能が「Projects(プロジェクト)」だ。ChatGPT にも Claude にもある。業務ごとに専用の作業スペースを一つ作り、前提を最初に一度だけ書いておく。以降は開くだけで、自社の文脈をわかったAIが待っている状態になる。今日は、この「業務ごとの専用AI」の作り方と、中小が最初に組むべき型を書く。
毎回同じ前提を貼り直していないか

ふつうのチャットは一回ごとに記憶が切れる。だから前提を毎回渡す。ここに二つの損が出る。ひとつは入力の手間。もう一つは品質のブレだ。前提を省いた日、または渡す情報を少し変えた日に、答えの精度が静かに落ちる。
担当者が三人いれば、三人が三通りの前置きを打つ。同じ質問でも返る答えが揃わない。AIを業務に載せたいのに、この揺れが「やっぱり信用できない」につながる。前提を人の手作業に委ねている限り、このブレは消えない。
Projects は業務ごとの常設の作業スペース

Projects は、業務単位で切る「箱」だと考えるといい。箱ごとに二つを固定して持たせる。ひとつはカスタム指示。役割や口調、守るべきルールを常設で書いておく欄だ。もう一つはナレッジ。就業規則や商品資料といった社内文書を登録しておく置き場になる。
一度設定すれば、その箱の中の会話にはこの二つが自動で効く。前提を貼り直す必要が消える。単発チャットが「毎回ゼロから説明する派遣さん」なら、Projects は「自社のことを一度覚えた常駐スタッフ」に近い。育てるほど答えが安定する。
使えるプランには条件がある。Claude の Projects は無料版では使えず、Pro(個人向け)か Team、Enterprise で利用できる。ChatGPT にも同じ発想の Projects があるが、対応プランは改定が続いていて媒体ごとに記述が割れる。契約中のアカウント画面で、Projects が表示されるかを確かめてから始めてほしい。
カスタム指示は四つのブロックで固定する
カスタム指示は思いつきで書くと抜けが出る。四つのブロックに分けて埋めると安定する。役割、目的、制約、出力形式の四つだ。たとえば就業規則の問い合わせ対応なら、こう書く。
役割:あなたは当社の人事担当です。社員からの就業規則に関する質問に答えます。
目的:登録した就業規則にもとづき、社員が自己判断できる形で回答します。
制約:登録資料に書かれていないことは推測せず「規程に記載がないため人事に確認してください」と答えます。個人の懲戒や評価には触れません。
出力形式:ですます調。まず結論を一文、次に根拠となる条項名、最後に必要なら次の行動を一行で示します。
肝は制約の欄だ。「資料にないことは答えず、確認を促す」の一文を入れておくと、AIが知らない規程をそれらしく作文する事故を抑えられる。この一文を省くと、かすれた記憶で堂々と間違える。人事の回答でそれをやられると被害が大きい。
ナレッジは PDF より テキストで入れる

社内資料を登録するとき、コツが二つある。ひとつは役割ごとにフォルダ(箱)を分けること。就業規則の箱にECの商品資料を混ぜると、AIが引く先を誤る。一業務に一箱を守ると精度が上がる。
もう一つは、資料をできればテキストや Markdown(マークダウン。見出しや箇条書きを記号で表す軽い書式)で入れることだ。PDF をそのまま登録すると、レイアウトの都合で読み取りがずれやすく、消費するデータ量も増える。同じ内容でも、テキストで渡したほうが引用の精度が上がり、動作も軽い。手元の Word や Google ドキュメントから、書式を落としてテキストで貼るだけでいい。
中小がすぐ作れる三つの箱
最初から全部門ぶんを作る必要はない。反復が多く、判断基準が決まっている業務から一箱だけ作る。中小ですぐ効くのは次のあたりだ。
- 就業規則・社内規程のQ&A:規程をテキストで登録し、社員の質問に一次回答させる。人事への「これ有給で取れますか」を減らせる。
- ECの商品説明文づくり:ブランドの言葉づかいと型番の書き方を指示に固定し、仕様のメモから説明文を量産する。
- 問い合わせ返信テンプレ:よくある質問と模範回答をナレッジに入れ、来たメールに合わせて下書きを起こさせる。
単発のプロンプトのコツ、たとえば役割を細かく指定する、複数の帳票を並べて突き合わせる、といった話はこれまでも書いてきた。Projects はその一段上にある。都度の工夫ではなく、社内のナレッジを常設のAIとして育てる設定側の型だ。当社が伴走で入るときも、最初に組むのはたいていこの一箱になる。
投入する前と、AIが返した後にやること
常設で使うからこそ、入口と出口に関所を置く。ここを省くと、便利さと引き換えに事故を仕込むことになる。
- 投入する前:ナレッジに登録する資料から、外に出せない情報を落とす。取引先名、個人名、口座、給与額などは、業務が成り立つ範囲で伏せるか仮名にする。クラウド型のAIに社外秘をそのまま置かない。外に出せない資料を扱うなら、閉域で動かす構成を別途検討する。
- AIが返した後:出てきた回答は下書きとして扱い、人が原本と突き合わせて確定する。特に金額、規程の条項、客先に出す文面は必ず目視で照合する。AIは下書き、確定は人。この線は常設にしても動かさない。
正直な話、向く業務と向かない業務
Projects が効くのは、前提が安定していて、同じ形の質問が繰り返し来る業務だ。就業規則も商品説明も、土台の資料がそう頻繁には変わらない。逆に、前提が案件ごとにまるごと入れ替わる業務では、箱を作るうまみが薄い。
それと、登録したナレッジは放っておくと古びる。規程を改定したら箱の中身も差し替える手間がかかる。この更新を誰がやるかを決めずに作ると、半年後に古い規程で答える箱が残る。作って終わりではなく、資料の更新係を一人決めておく。
まずは一業務ぶんの箱を一つ作り、指示と資料を入れて一週間使ってみてほしい。前提の貼り直しがどれだけ減ったか、答えのブレがどれだけ収まったかを、その業務の前後で見比べる。差が出た業務だけ、次の箱を作って広げればいい。小さく作って、測ってから増やす。当社のAI導入支援でも、この順番は変えていない。



